| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB1-227

野生下での野ネズミのタンニン馴化機構 −タンニン摂取量の季節変動と糞中タンナーゼ活性の関係−

*西井絵里子(北海道大学環境科学院),島田卓哉(森林総合研究所東北支所),斎藤隆(北海道大学FSC)

ミズナラなどの堅果は森林性野ネズミの重要な食物資源であるが、被食防御物質であるタンニンを多量に含んでいる。タンニンの過剰な摂取は、消化管の損傷などの有害な影響を消費者に及ぼすことが知られている。これまでの実験室内の研究で、アカネズミがタンニン結合性唾液タンパク質(PRPs)とタンナーゼ産生腸内細菌(TPB)の働きによってタンニンに馴化し、負の影響を軽減していることが分かってきた。本研究では、野生下の3種類の野ネズミのタンニンに対する馴化機構において、何が重要な役割を果たしているかを明らかにすることを目的とし、糞中プロリン(PRPsとタンニンの複合体)とTPBの季節変化を調べた。サンプルは、北海道大学雨龍研究林で捕獲したアカネズミ、ヒメネズミ、エゾヤチネズミの新鮮糞便から採取した。タンニン摂取量は、糞中プロリン量と糞中フェノール量を指標とした。また、タンニン抜きの配合飼料を与えて一週間後のサンプルをベースラインとし、野生下での測定を基準化した。TPBについては保有量(糞1gあたりの出現コロニー数;CFU)とタンナーゼ活性を測定した。アカネズミやヒメネズミにおいて糞中プロリン量と糞中フェノール量は秋に顕著に増加していた。この結果より、両種は堅果落下時期にタンニンを多く含む餌に切り替えていることが示唆された。一方、エゾヤチネズミは、糞中プロリン量に明瞭な季節変化を示さなかった。また、3種すべてにおいてタンニン摂取量の増加に応じてTPBの活性や保有量は顕著な増加が見られなかった。これらの結果より、野生下において、TPBがタンニン馴化に果たす役割は小さいことが示唆された。一方、糞中プロリン量が秋に増加する結果や糞中プロリン量とタンニン摂取量間に正の関係を持つ結果より、PRPsがタンニン馴化に果たす役割が大きい可能性が示唆された。


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