| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB1-244

遺伝的近縁度がsagebrush (Artemisia tridentata) の植物間コミュニケーションに与える影響

*石崎智美, 大原雅(北大・院・環境科学), 塩尻かおり(京大・生態研センター), Richard Karban(UC Davis・Department of Entomology)

植物は被食を受けるとその後の被食を少なくするために様々な反応を示すが、その一つに、誘導防衛反応がある。この反応の中には、被食を受けた個体の防衛反応を誘導するだけでなく、無傷の近隣個体の防衛反応を誘導する反応もあり、この現象は「植物間コミュニケーション」と呼ばれている。このような植物間コミュニケーションには、被食部位から空気中に放出される揮発性有機化合物(VOCs)がシグナルとして機能していることが報告されている(Arimura et al., 2000)。

本研究の対象種sagebrush(A. tridentata)は北米西部の乾燥地域に生育する低木種である。Sagebrushは食害により葉が傷付けられると強い匂い(VOCs)を放出し、自身の防衛反応を誘導する。さらに、VOCs放出個体から60cm以内に分布する無傷の個体でも、VOCsを受容することにより防衛反応が誘導され、その後の被食が減少する。Sagebrushでは、放出されるVOCs組成は個体によって異なるため、その違いが個体間の情報伝達に影響することが考えられる。そこで、我々は、VOCs組成を決定する要因を調べるため、VOCs組成の違いに個体間の遺伝的近縁度が影響すると予想し、GC-MSによるVOC成分の分析およびマイクロサテライトマーカーによる遺伝解析を行った。その結果、遺伝的に近縁な個体ほどVOCs組成が類似する傾向が認められ、sagebrushにおける植物間コミュニケーションでは、遺伝的近縁度がVOCsによる個体間の情報伝達に影響を与えることが示唆された。


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