| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB1-283

琵琶湖沿岸域におけるユスリカ相の現状―最近約10年間の変化

*井上栄壮(信州大・繊維),小林貞(川崎市),西野麻知子(琵琶湖環境科学研究センター)

琵琶湖沿岸域における体系的なユスリカ相調査は、Sasa and Kawai (1987)、北川(1997)、Kawai et al. (2002)によって行われてきた。その他の報告も含めると、これまでに琵琶湖で記録されたユスリカ類は、種名を付されたものだけで総計97種に上る。琵琶湖産のすべての動植物のうち、1つの科でこれほどの種数を擁するものは他に知られていない。

しかし、1994年(Kawai et al. 2002)以降の10年以上にわたって、琵琶湖沿岸域における体系的なユスリカ相調査はなされていない。その間、沈水植物帯の拡大や湖底における硫黄酸化細菌Thioploca spp.の増加など、琵琶湖の環境および生物相が近年劇的に変化したことを示す報告がなされてきた。そこで演者らは、琵琶湖沿岸域におけるユスリカ相およびその分布現況の解明を目的として、2006年から調査を継続している。本講演では、2006年10月から2007年11月までの間、のべ182地点における調査結果を報告する。

底質を持ち帰り幼虫を成虫まで飼育する方法およびスウィーピングなどによる成虫採集の結果、総計5亜科118種が同定され、このうち62種は琵琶湖初記録種であった。1994年の調査結果と比較して最も分布状況が異なった種は、琵琶湖初記録種であるコナユスリカ属の1種Corynoneura lacustrisであり、4月から10月にかけて主に南湖沿岸で大量の成虫が採集された。一方、かつて大量発生していたオオユスリカChironomus plumosusやアカムシユスリカPropsilocerus akamusiは少数の成虫が採集されるにとどまった。こうした変化がどの程度の速さで進行したのかは不明であるが、特に南湖においては沈水植物帯の拡大と無関係ではないと考えられる。


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