| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB1-286

シカが改変する土壌動物群集の空間分布:森林ギャップからの距離依存性

*北村 智之,宮下 直(東京大学・農・生物多様性)

大型草食獣は陸上生態系の主要な撹乱要因の1つであり、多様な生態的プロセスを介して土壌動物群集の構造や、土壌の物理化学性、栄養塩循環など広範な要素に影響を及ぼす。大型草食獣の影響はその方向性や強さが状況依存的に変化する。例えば草原のような栄養塩循環が速い系では、大型草食獣の採食と糞尿により循環が加速される一方、森林のように栄養塩循環が遅い系では糞尿による循環の加速は小さく、不嗜好性植物が優占し難分解性リターが増加するため分解が遅滞すると考えられる。

一方、近接した系間で大型草食獣による改変の強度や方向性が異なる場合には、一方の系で生じた大型草食獣による撹乱の影響が、生物や物質の移動を介して他方の系に波及し、間接的に群集構造を改変することが考えられる。そのため、大型草食獣の影響を予測する上では近接した系間のつながりを考慮することが重要である。

本研究では、林冠ギャップとその周辺の閉鎖林冠下という環境の異質性に着目した。林冠ギャップは資源が豊富であり、閉鎖林冠下より多くの土壌動物が生息できるだろう。そのため、林冠ギャップから周辺への土壌動物の漏出により、林冠ギャップからの距離に応じた土壌動物の群集構造が成立していると予測される。一方で大型草食獣が高密度に生息する場合には、林冠ギャップでは下層植生や土壌孔隙率が大幅に減少し、土壌動物個体数も大きく減少すると考えられる。本研究では、シカによる林冠ギャップの生態系改変が、周辺の閉鎖林冠下への土壌動物の移入の減少を介して、土壌動物群集の空間構造を均質化するという仮説を検証する。


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