| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB1-317

高緯度北極氷河後退域の遷移:キョクチヤナギはなぜパイオニアになれないのか?

*中坪孝之(広島大・院・生物圏),藤吉正明(東海大・教養),吉竹晋平(早稲田大・院・先進理工),内田雅己(極地研)

キョクチヤナギSalix polaris は矮性のヤナギで、高い光合成能力をもち、高緯度北極氷河後退域の炭素循環に重要な役割を果たしている。スバールバル諸島ニーオルスン(北緯79度)では、キョクチヤナギは氷河後退跡の遷移後期の優占種となっているが、ムラサキユキノシタSaxifraga oppositifolia が優占する遷移初期段階への侵入はきわめて少ない。 この理由を明らかにするため、キョクチヤナギが定着しはじめた移行段階のモレーン上に30m × 30mのコドラートを設置し、個体の性別とサイズ(コロニーの長さ×最大幅)、ムラサキユキノシタとの関係、土壌環境について調査を行った。コドラート内で確認されたキョクチヤナギは115個体 (雄株22 個体、雌株13 個体、不明80個体)で、最大サイズは2000 cm2に達したが、84%は100 cm2.以下の小さな個体であった。しかし、葉跡数をもとに令の推定を行った結果、10 cm2以下の小型個体でも10年以上経ているものがあり、新規に加入した個体は少ないことが明らかになった。定着場所に関しては、75%の個体が裸地に直接定着しており、ムラサキユキノシタ群落内に定着している個体はわずか4 個体にすぎなかった。また、ムラサキユキノシタしか定着していない場所とキョクチヤナギが侵入しつつある場所の土壌窒素含量と土壌含水率を比較したところ、有意な差は認められなかった。 これらの結果から、キョクチヤナギの侵入速度は、土壌発達とは無関係で、新規加入個体の少なさによって制限されていると考えられた。また、過去の航空写真とモレーン上の現在の分布域から、キョクチヤナギの分布拡大速度は氷河の後退速度にくらべ遅いことが明らかになった。


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