| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB2-666

オウレンにおける雌機能不全花の生態的意義

*笠木哲也(金沢大),谷友和(東大),中村浩二(金沢大)

キンポウゲ科の多年草オウレンは両性花を生産するが、雌しべが退化して雌機能不全となった花、つまり雄花として振る舞う花がよく観察される。切葉処理によるオウレンの同化器官の損失は、次年度において両性花から雌機能不全花へのシフトを促進した。また、両性花をつけたオウレンは、雌機能不全花をつけた個体よりも開花から結実期にかけて光合成活性が高く、両性花の維持及び種子成熟に伴うコストの高さが示唆された。このことからオウレンは、資源に制約がある年には雌機能へ投資せずに花を生産すると考えられた。オウレンが雌機能不全花を生産する生態学的な意義を考察した。

オウレンは落葉広葉樹二次林の林床に生育することが多く、石川県の低地では雪解け直後の3月中旬に開花し、4月中旬には結実する。オウレンは自家不和合性であり、結実には昆虫による他家花粉の媒介が必要である。オウレンの開花時期はまだ気温が低いため、活動を始める昆虫は非常に少なかったが、小型甲虫類であるキイロハナムグリハネカクシの訪花が観察された。このハネカクシはオウレンの花粉を食べていたが、交尾の場として葯や柱頭の上を歩き回ることによって受粉を促進しているようであった。ハネカクシは花上での滞在時間が長く、花間を移動する頻度は低かったが、局所的に個体が集中している場所で訪花頻度が高かった。オウレンの結実率は近隣の局所的な開花密度と正の相関があり、雌機能不全花も結実に貢献していた。

雪解け直後の昆虫が少ない時期に開花するオウレンは、花粉食者であるキイロハナムグリハネカクシに花粉媒介を依存していた。オウレンが資源不足の時にも花生産を止めずに雌機能不全花を生産する意義として、花間移動の頻度が低いハネカクシによる花粉媒介を機能させるため、集団内の花粉親密度を高く維持することが考えられる。


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