| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB2-668

標高の違いがブナの結実特性と豊凶周期に与える影響

*小谷二郎(石川県林試),鎌田直人(東大秩父演習林)

標高の違いとブナの結実特性の関係を調べるために、標高230〜1280mのブナ林9箇所で堅果生産量を比較した。調査は、シードトラップによる方法(1林分5箇所)を用いて8〜10年間行った。回収期間は4〜12月(高標高域では5〜11月)で、回収間隔は9月まで1ヶ月置きでそれ以降2週間置きとした。回収した堅果は、健全・未熟・しいな・虫害・鳥獣害別に仕分けした。二次林と思われる林分が2箇所存在したが、ほとんど胸高直径50cm以上の成熟した天然生林である。林分面積は、高標高域では20ha以上であるのに対し、低標高域では0.4〜1ha程度の小面積で孤立的な場所も存在した。調査の結果、健全堅果の生産および豊作年(健全堅果数が100個/m2以上の年と定義)の周期から、以下の3つに分けられた。a:1〜2年に1度結実し、10年間に2度豊作年が訪れた林分(高標高域タイプ)。b:2〜3年に1度結実し、8〜10年間に1度豊作年が訪れた林分(中〜低標高域タイプ)。c:3〜5年に1度結実し、8年間に1度も豊作年が訪れなかった林分(低標高域タイプ)。林分単位では、健全率に対し開花数(正の相関)と虫害率(負の相関)が有意な関係を持ったことから、標高に無関係に開花数が少なく虫害率が高い年は健全率を下げる原因となっていることを示していた。標高と8〜10年間の平均開花数・平均健全率・平均虫害率の間には有意な関係はみられなかったのに対し、標高と平均しいな率の間には有意な負の相関関係がみられた。また、平均しいな率と平均健全率の間でも有意な負の相関関係がみられたことから、低標高域での健全率に影響をおよぼす主要因として、しいな率が関係していると考えられた。以上のことから、低標高域のブナ林で結実周期が長く健全堅果生産数が少ない原因として、ブナの生育下限地帯での小集団化による高いしいな率が関係していると考えられた。


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