| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PB2-682

シバ草地における温暖化操作実験 ―装置の開発と現存量・生態系CO2フラックスの比較―

*関根有哉(早稲田大・教育),八代裕一郎(岐阜大・流域研),小泉博(早稲田大・教育)

CO2濃度の上昇に伴う地球温暖化により、過去100年で気温は0.74℃上昇し、今後100年ではさらに1.1〜6.4℃の気温上昇が予測されている。温暖化に対する生態系の実際の応答を調査するために、近年様々な温暖化操作実験が行われているが温度制御や生態系のかく乱等の問題があった。そこで本研究では、(1)実際の温暖化に近い上から下へのエネルギーの伝導が可能で、生態系にダメージを与えない赤外線ヒーターを用いた昇温法の確立と、(2)長期的な測定を行うためのシバ現存量の非破壊的測定手法の確立、および(3)温暖化がシバ草地のCO2フラックスに与える影響を評価することを目的とした。

実験は高山市乗鞍岳のシバ草地で8月下旬から12月上旬まで行い、地表から1.2mの位置に赤外線ヒーターを置く昇温区と、何も置かない対照区を6つずつ設置し、地下2cmの地温と土壌含水率を継続的に測定した。また、毎月1回、地面に刺したピンと植物体の接触回数から現存量を推定するポイントフレーム法により地上部現存量を求め、さらに、実験期間中に3回シバ草地のCO2フラックスの測定を行った。

故障期間を除いて実験期間中は、昇温区の地温は対照区より常に2℃程度上昇していた。また、昇温による土壌含水率の変化は認められなかった。地上部現存量は昇温開始後しばらくは、昇温区でも対照区でも同様の増加傾向を示した。しかし、昇温開始1ヶ月〜2ヶ月後には、地上部現存量が昇温区では増加傾向、減少傾向を示した区がどちらも存在したのに対し、対象区はすべての区において減少傾向を示した。CO2フラックスに関しては、全期間を通じて光合成速度はどちらの区でもほとんど差がなかったが、生態系呼吸速度は昇温区で高かった。そのため、2℃程度の昇温は生態系純生産量を減少させることが示唆された。


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