| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC1-352

同所的イトヨ2型における繁殖場所分岐:捕食リスクと遡上コストとの関連について

*久米学(土研自然共生セ),北野潤(FH癌研究セ),森誠一(岐阜経済大),鈴木規慈(三重大院・生資)

日本周辺に生息するイトヨGasterosteus aculeatusには,遺伝的に分化した日本海型と太平洋型が存在し,同所域では2型間に生殖的隔離が存在する.これまでの演者らの研究により,イトヨ2型の間には同所域において,産卵遡上パターンの違いに起因する繁殖場所分割が生じていることが明らかになっている.しかし,異なる繁殖場所が有する,如何なる生態学的特性が,この繁殖場所分割の原因となっているのか,は明らかになっていない.そこで本研究では,まず,イトヨ2型の成熟個体の河川内分布パターンから両者の繁殖場所を解析し,次いで,それぞれの場所における捕食リスクを推定した.そしてこれらの結果に基づいて,イトヨ2型における繁殖場所選択の決定要因について考察した.その結果,イトヨ日本海型は,主に河口域(塩分濃度20-33psu)で繁殖するのに対して,太平洋型は,主に河川中-下流域(0-10psu)で繁殖するというように,両者は同一水系内において,異なる繁殖場所を利用することが確認された.また,イトヨは主に鳥類により捕食されていると考えられ,河口域では中-下流域と比較して,魚体に損傷を負っている個体が多く(河口域:28.4-55.0%,中-下流域:11.1-20.0%),捕食リスクが高いことが示唆された.以上の結果から,日本海型は,上流への遡上を避けることによって,それに伴うコストを低下させる一方でより高い捕食リスクに曝され,太平洋型は,捕食リスクが低い場所まで,より長い距離を遡上し繁殖する,というように,両者は繁殖場所選択に際して,捕食リスクと遡上コストに関連した異なる繁殖戦略を採用していると考えられる.


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