| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC1-355

ニホンジカの高密度化が鳥類群集に与える影響

*奥田圭(宇都宮大・農),小金澤正昭(宇都宮大・演習林)

1970年代後半から,全国各地でニホンジカCervus Nippon (以下シカと記す)の個体数が増加し,森林生態系へ様々な影響を与えるようになった.なかでも,森林植生に与える影響は数多く報告されている(土肥ら 1985,星野ら 1987).森林性鳥類は,森林の構造や水平配置,樹種などと密接な関係があることが広く知られている(James & Wamer 1982).そのため,シカによる植生の改変は,鳥類群集に大きな影響を与えることが予想される.

本研究では,シカ密度の異なる4地域,須田(1999)の長崎県対馬(4.3頭/km2),上野(2004)の栃木県奥日光(10〜20頭/km2),山口(2004)の神奈川県丹沢山地(26〜28頭/km2),Hino(2000)の奈良県大台ケ原(30〜40頭/km2)の鳥類センサスデータから得られた鳥類群集組成と,シカの個体数が増加する以前の,日本の森林性鳥類群集の種組成と林相の関係を類型化した由井(1976)のデータを比較し,シカの生息密度の変化と時間の経過が間接的に鳥類群集にどのような影響を与えているのか考察した.

鳥類群集は,シカ密度が4.3頭/km2程度である場合,群集組成には大きな影響を及ぼさないことが考えられた.しかし,10〜20頭/km2程度にまで高密度になると,採食圧による草本・低木類の貧弱化(長谷川 1994)や,樹皮剥ぎによる枯死木の増加(神崎ら 1998)などに伴い,森林下層営巣性の種が欠落し,樹洞営巣性の種を主とする群集組成となることが示唆された.さらに26〜28頭/km2,30〜40頭/km2程度になると,開放地が拡大(高槻 1991)し,地上採食性の種が優占種に置き換わることが考えられた.


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