| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC1-360

ソテツ上に発生するカイガラムシとアリの興味深い分布パターン

*田中 宏卓, 大西一志, 辻 和希 (琉球大学農学部)

カイガラムシなどの甘露排出昆虫とアリ類の共生関係は古くから生態学者の興味を引き、これまでに多数の研究が行われている。しかし我が国におけるカイガラムシ類とアリ類の共生関係の研究は特定の共生関係のみに注目して行われた研究事例が大半であり、特定の種の組み合わせにとらわれずに総合的にカイガラムシとアリの共生関係を検討した研究事例は見当たらない。

演者は分布パターンの面から総合的にカイガラムシとアリの共生関係を検討することを目的として、沖縄島南部のソテツ上でのカイガラムシ類とアリ類の発生状況を2008年の5月から7月にかけて調べ、カイガラムシとアリ各種間、カイガラムシ各種間、アリ各種間においてそれぞれ分布の重なりが認められるかどうか、すなわち共存関係が認められるかどうかを調べた。

その結果、調査したソテツ株上では4種の甘露排出カイガラムシ、2種の非甘露排出カイガラムシ、16種のアリが認められた。これらの分布パターンを解析したところ、(1)甘露排出を行うカイガラムシにはアリとの有意な共存関係が認められる。(2)調査した甘露排出カイガラムシ種とアリ種には1対1の特定の共存関係は認められない。(3)甘露排出を行わないカイガラムシは一部のアリとの共存関係は認められるが、全体としてアリとの有意な共存関係は認められない。(4)甘露排出カイガラムシ種間に有意な共存関係が認められる。(5)アリ間で特に排斥的な関係は認められず、また一部のアリ種の組み合わせでは有意な共存関係さえも認められる−ことが明らかとなった。

これらの結果は従来のアリの分布に関する理論や、アリ学で支配的な競争排除を始めとする平衡群集理論から予想される結果とは異なるものを含んでおり非常に興味深い。本講演ではなぜこのような共存関係が認められたかを考察する。


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