| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC1-386

炭素安定同位体比の異なるオオユスリカ幼虫個体間の脂肪酸組成の違い

*安野翔(東北大・院・生命),山中寿朗(岡山大・理・地球科学),鹿野秀一,菊地永祐(東北大・東北アジア研)

湖沼の底生動物の多くは、起源不明のデトリタスを摂食する。デトリタス中には、緑藻、珪藻、細菌、高等植物遺体等、様々な有機物が含まれる。しかし、底生動物は、デトリタス全体を同化するのではなく、微小藻類や細菌などの消化しやすい有機物を選択的に同化することが知られている。そのため、底生動物の餌資源を特定することは容易ではない。本研究では、富栄養湖でしばしば優占するオオユスリカ幼虫の炭素安定同位体比(δ13C)と脂肪酸組成を個体間で比較することで、より詳細な餌資源の推定を試みた。2007年5月に宮城県伊豆沼にて、POM、堆積物、オオユスリカ幼虫を採集し、δ13Cを測定した。POMと堆積物のδ13Cは、それぞれ-27.8±1.3‰、-27.8±0.1‰であったが、オオユスリカ幼虫のδ13Cは、-50.9~-27.5‰であり、極端に低いδ13Cの個体も見られた。堆積物中で発生するメタンのδ13Cは、-80~-60‰と非常に低く、メタンを炭素源とするメタン資化細菌がδ13Cの低いオオユスリカ幼虫の餌として寄与していることが示唆された。δ13Cの異なる4個体の脂肪酸組成を分析したところ、いずれの個体も細菌起源の脂肪酸含有率は、緑藻、珪藻起源の脂肪酸に比べて高く、しかもδ13Cと細菌起源の脂肪酸i17:0の含有率との間に負の相関が見られた(r=-0.973, p<0.05)。すなわち、細菌の餌資源としての重要性が示唆される。δ13Cの低い個体で脂肪酸i17:0の含有率が高かったことは、δ13Cの低いオオユスリカ幼虫においてメタン資化細菌に固有とされる既知の脂肪酸濃度は定量限界以下であったとはいえ、i17:0脂肪酸はメタン資化細菌の新たなバイオマーカーかメタン資化細菌の活動と密接に関連した細菌群に由来するものであることを示唆している。


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