| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC1-406

安定同位体比からみた亜寒帯河口干潟域のアサリの餌環境

宇田川 徹(北海道区水産研究所)

北海道東部釧路地方の琵琶瀬川河口干潟産のアサリ Ruditapes philippinarum の炭素および窒素の安定同位体比を分析し,これに基づいてアサリの餌環境について考察した.

北海道のアサリ漁獲量の9割は東部の釧路・根室地方で漁獲されており,この地域では汽水湖沼や河川河口域が主要な漁場となっている.琵琶瀬川河口干潟域は,泥炭地の川底に砂が堆積して形成されており,干潟および周辺浅場ではアサリの自然個体群が長年維持されている.琵琶瀬川は霧多布湿原(一部に天然記念物地域を含む)を流下する最大の河川であり,流域の自然環境はよく保存されている.また,干潟域周辺は市街化しておらず,一部護岸工事はされているものの,下水(処理水含む)の流入もない.さらに,干潟域で漁場造成・改変は行われていない.したがって,琵琶瀬川河口干潟域のアサリ個体群は北海道東部の河口域におけるの原初的な状況を反映していると考えられる.

アサリ成貝軟体部(n = 17)の安定同位体比は,炭素安定同位体比δ13C・窒素安定同位体比δ15Nはそれぞれ,-18.4(平均)± 0.3(SD)‰ ・ 8.8 ± 0.3 ‰であった.炭素安定同位体比の値は,底棲微細藻類の標準的値(-16‰前後)と海洋植物プランクトンの標準的値(-20‰前後)の中間的な値であり,陸上植物の標準的値(-25‰以下)とは異なっていた.

アサリの主要な餌を微細藻類と仮定すれば,底棲微細藻類と海洋植物プランクトンとの両方が餌源となっていると考えられる.しかし,琵琶瀬川の河川水は典型的な湿原起源水であり,陸起源有機物の影響が強い.陸起源有機物およびその分解物等(デトリタス・微細藻類以外の微生物類)の影響については,さらなる検討が必要である.


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