| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC2-781

虫媒性植物ウイルスの企み:感染葉へ誘引し保毒虫を増やす

櫻井民人(東北農研)

病原体と宿主との関係は必ずしも二者間の相互作用系によってのみ成り立っているわけではない.虫媒性ウイルスにとって自身の適応度を最大化するためには,宿主側の抵抗性を打破するだけではなく,ベクター昆虫をいかに制御するかが重要である.トマト黄化えそウイルス(TSWV)は微小昆虫アザミウマ類によって媒介され,世界的に多くの農作物に被害を与える植物ウイルスである.ミカンキイロアザミウマがこのウイルスの主要媒介種として知られているが,TSWVに利益をもたらす本種の行動として,雌による感染植物への選好性が報告されている.感染植物上に降り立った雌はそこで産卵を行うため,孵化幼虫の頻度も健全植物に比べて高い.ウイルスの獲得は幼虫に限定されるため,このような雌成虫のふるまいはTSWVにとってきわめて適応的である.最近,TSWV感染植物上で過ごすことが本種幼虫の生存や発育に有利に作用することが報告された.すなわち,感染植物への本種の選好性は,両者にとって適応的な行動であると言える.一方,ウイルスと宿主植物との関係は複雑であり,宿主側の抵抗反応によってウイルスは全身感染できず局部感染にとどまっている場合も少なくない.このような場合,たとえ感染植物を雌が選好しても孵化幼虫が必ずしもウイルスを獲得するとは限らない.また,発病前の感染植物はウイルス濃度が低く,雌の選好対象とはならない.これを克服し両者がさらに適応度を高める戦略として,雌だけではなく幼虫の選好性の存在がクローズアップされる.そこで, TSWV感染植物または部位への本種幼虫の選好性の存否を明らかにするため,機械的にウイルスを接種した感染株および健全株を用いて選択実験を行うとともに,成虫における保毒虫頻度を調査した.これらの結果をもとに,感染植物に対する幼虫の行動とウイルスの適応度との関係について考察する.


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