| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC2-832

植生防護柵設置後の林床植生の変化

*田川哲(九州大学),芹沢俊介(愛知教育大学),千葉かおり(自然環境センター),脇山成二(自然環境センター),藤田卓(日本自然保護協会),中澤幸(東京大学・院総合文化研究科),矢原徹一(九州大学)

近年シカの個体数増加にともなう植生の改変が全国各地で問題になっている.例えば,日光のシラネアオイ群落が消失や尾瀬湿原の荒廃があげられる.屋久島は,降水量が多く亜熱帯から亜高山帯までの気候帯を有しており,多様な生物が生息・生育できる環境を備えている.屋久島には希少種や固有種も数多く生育している.近年ヤクシカの個体数増加にともなって食害圧が増し,林床植生はシカが好まない植物や,食害を受けても耐えることができる種が生育する単純な植生に変化している.そこで,本研究ではシカが林床植生に与える影響を把握するために環境の異なる場所に防護柵を設置し,防護柵の内と外の植生の変化を比べることで,シカによる食害が植生に与える影響を把握することを目的とした.防護柵は,2004年3月に小杉谷に4ヶ所,2005年3月に安房の林道沿いに3ヶ所そして2006年3月にヤクスギランドに2ヶ所した.その後1年に一度,防護柵の内と外の植生調査を行った.安房林道沿いの美濃沢に設置した防護柵内の8つのコドラート(2m×2m)では,2005年に調査した際の平均出現種数は20.5種であった.2008年の平均出現種数は22.5種へ増加した.平均植被率も57%から75%へ増加した.美濃沢の防護柵外の8つのコドラートの平均種数は2005年の18.4種から22.9種へ増加したが,平均植被率は20.1%から20.7%とほとんど変化がなかった.他の調査区でも同様の傾向がみられた.以上の結果より,シカによる食害は林床植生に大きな影響を与えていることがわかった.立地環境によって違いはあるもののシカの影響を排除すると植生が回復することが明らかになった.


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