| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC2-851

モンゴル草原に同所的に生息する有蹄類2種の移動パターンの違い

*伊藤健彦(鳥取大・乾燥地研究セ), B. Lhagvasuren, B. Buuveibaatar(モンゴル科学アカデミー),恒川篤史(鳥取大・乾燥地研究セ)

乾燥草原や半砂漠が広がるモンゴル南部のゴビ地域には、数種の大型野生草食動物が生息し、絶滅が危惧されている種も多い。そのうち、アジアノロバ(Equus hemionus)とモウコガゼル(Procapra gutturosa)は乾燥や積雪などに対応して長距離移動をするといわれている。アジアノロバとモウコガゼルの分布域は重なっているが、アジアノロバは奇蹄類で体重約250kg、モウコガゼルは偶蹄類で約30kgと、消化生理や体サイズが異なる。したがって、必要とする食物や環境が異なることが考えられ、移動パターン、移動要因も異なることが予想される。この2種を対象に2007年5、6月に各16頭の衛星追跡を開始した。位置データは8日間間隔で取得するよう設定した。一部、追跡開始直後にデータが送信されなくなった発信機や、死亡したと推測された個体があったが、多くのモウコガゼルは1年間連続的に追跡することができた。一方、アジアノロバでは、砂浴びや噛み合い等により発信機のアンテナが損傷したためか、データ取得が断続的になったり、停止したりした個体が多かった。その中で8日後の位置データが得られたものを比較すると、両種とも8日間で100km以上移動することが観測されたが、平均移動距離はモウコガゼルよりもアジアノロバのほうが長かった。これは、個体差はあるものの、アジアノロバは常に移動し続ける傾向があるのに対し、モウコガゼルは比較的狭い地域に滞在する期間と、移動距離が長い期間がみられる傾向があるためと考えられた。このような違いは両種の乾燥地における生存戦略や、両種にとっての重要な地域が異なることを示す。各種の保全対策を考慮する上で、移動パターンと環境情報との解析が重要であろう


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