| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


シンポジウム S09-4

小笠原諸島の絶滅危惧植物の現状と課題−ユビキタス・ジェノタイピングから何が得られるのか−

安部哲人(森林総研・九州)

小笠原諸島の植物相は固有種率が40%以上に達するが,世界の海洋島と比較して面積が小さい.このため固有植物の多くが絶滅危惧種であり,推定個体数が100個体未満ものも少なくない.小笠原諸島では過去に人間の定住に伴う土地利用により島の大部分の自然植生が撹乱を受けた経緯があり,その後の外来種による撹乱も含めると現存する絶滅危惧種はすべて何らかの人為的影響を受けてきたと考えられる.一方で,小笠原諸島は世界自然遺産の候補地でもあり,指定の障害になる侵略的外来種の根絶を中心に自然再生事業が進行している.このため,外来種の特性や生態系に与える影響といった研究は大きく進展しつつあるが,絶滅危惧種に関する科学的知見はその種数の多さもあって蓄積が遅れている.また,こうした種の動態は外来種根絶事業の大きなリスク要素でもあることから,早急な現況解明が必要である.絶滅危惧種の遺伝的多様性や遺伝子流動の情報は絶滅リスク推定の精度が向上させ,保全の優先順位を決定する有力な根拠になると期待される.また,全個体の遺伝情報が確定できれば,長期的な個体群モニタリングにも活用が可能である.更に個体数が極端に少ない種や衰退が著しい種については人為的な増殖が有力な選択肢となるが,個体数を増やすだけでなく集団の遺伝的多様性を維持する最適な増殖計画に寄与しうると考えられる.こうした保全生態学的視点とは別に,野外研究で興味深い生態現象が発見されており,遺伝解析で理解が深まると期待される事例もみられる.

本講演では,小笠原の絶滅危惧植物の生態解明や絶滅リスクの緩和に関してユビキタス・ジェノタイピングがどのように貢献しうるか,一般論ではなく具体例をあげてその可能性を紹介する.


日本生態学会