| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


シンポジウム S14-3

上空からのネストセンサスと地理情報を用いたオランウータンの生息適地選定モデル

*武生雅明,松林尚志,若松伸彦,中園悦子(東京農大)

東南アジア熱帯域では、自然林の多くが失われ、現在では生産林が大型哺乳類にとってのレフュージアとなっている。そのため生産林内に生物多様性保護区を設定し、木材生産活動により生息が脅かされないように保全していくことが望まれている。そこで本研究では、東南アジア熱帯で絶滅が危惧されている大型哺乳類の1種であるオランウータンを対象に、分布状況や生息環境に関する定量的データを基にした生息適地選定手法を確立することを目的とした。サバ州・デラマコット森林管理区を対象に、ヘリコプターにより上空からオランウータンのネストの分布を調べ、地形図上でネストの分布と、衛星データより推定した森林の地上部バイオマス、塩場、川や道路などの地理情報を重ね合わせて、オランウータンの生息適地を推定することを試みた。

同森林管理区南東部の急峻な山脈には、比較的バイオマスの大きな森林が残存し(80年代までの伐採で伐り残されたと推測)、ここにネストは多く分布する傾向が見られた。ネストの分布と環境要因との関係をDecision treeモデルによって解析した結果では、ネストの在不在には、幹線道路(現在の伐採地を通る)とプランテーションからの距離の人為的な2要因、および標高と塩場からの距離の自然要因の2つが有意な因数として選択された。つまりオランウータンは過去および現在の伐採の影響が小さく、ミネラル供給源である塩場に近い所を好んでいると言える。したがって、生産林においてオランウータンを保全するには、森林のバイオマスや塩場の位置を考慮して複数箇所に離して保護区を設け、道路敷設や伐採の影響が全ての保護区に同時に及ばないよう配慮することが必要であると考えられた。


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