| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


シンポジウム S16-4

縄文人の森林交渉力ー実験考古学からのアプローチ

山田昌久(首都大学東京)

先史人類の環境交渉を議論するデータの質について、考古学は十分な議論をしてこなかった。物質資料の分類作業からの類型化と、それを基にした時空間整理・機能解釈という研究構想では、先史人類の環境交渉力を具体的に議論できなかった。そこで、借り物理論である採集経済・生産経済という枠組みのなかに、先史社会の物質資料を整理・収斂させる研究がなされてきた。この研究構想では、「縄文社会」を、他の地球上の先史社会群と区別することはできない。そこで、日本史という系列史で一括説明することで、その社会の広がりを限定してきた。こうしたあいまいな規定と、考古学者が示してきた1年周期の食糧獲得・生産を中心とした生活歴では描き得なかった、縄文人の自然知やその対処法の特質を位置づける研究転換が望まれる。

人類の生活に要するエネルギー確保や施設資材確保の姿は、1縄文時代に斧や鍬鋤などの土木力を獲得して一世代の時間での生成資源を利用して次世代への負荷をかけない消費の仕組み、2弥生時代に始まった人類の数十世代の時間で生成された大径木を水系や沿海移送して消費する仕組み、3薪炭林を確保や植林による三世代の時間で生成された近世都市での消費の仕組み、4現在の人類世代数では表現できない時間蓄積で生成された化石資源を大量に長距離移して消費する仕組み、と変遷してきた。

今回の話題は、4の限界に直面している現在、1の段階の人類の生活構想の価値を問い直すものである。具体的な内容は、縄文時代の人類が手にした森林交渉力を実験データから数値化し、資源の生成時間をキーワードに、縄文社会として地球人類史のなかから時空間を切り取る基準=自然知・時間知・技術効果の関係の提示である。


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