| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


シンポジウム S23-3

トキの野生復帰を支える行政組織のネットワークづくり

岩浅有紀(環境省・佐渡自然保護官事務所)

平成20年9月25日、新潟県佐渡市にて10羽のトキが放鳥された。平成21年1月9日現在、7羽が佐渡、1羽が本州側の新潟県三条市付近にて確認され、1羽は死亡、残りの1羽は未確認という状況である。

トキの野生復帰は、平成27年頃に小佐渡東部を中心とする地域に60羽のトキが定着することを目標として進めているが、同時に人と生き物が共生する地域社会づくりを目指した取組である。このため、生息環境づくり、社会環境づくりを進めるにあたっては、地域住民、NPO、研究者、関係行政機関等地域における多様な主体の参画と連携が重要である。

特に生息環境づくりにおいては、エサ場となる水田やビオトープ、河川、湿地をはじめねぐらや営巣地となる森林といった自然環境を総合的に保全・再生していくことが望まれ、行政機関が実施すべき事業も多い。

しかしながら、これらの事業は複数の行政機関が所管し、さらに、事業制度、目的、受益者等の相違から、このような包括的な生息環境づくりを一体的に進めていくことは一般的に困難を伴うものである。

トキの野生復帰の取組では、トキ放鳥を控えた平成19年3月に多様な主体間の情報共有を図ること等を目的した「人・トキの共生の島づくり協議会(事務局:佐渡市)」が発足したことを契機に、生息環境について農地、河川、森林、ビオトープ、社会環境といった分野別に議論を深めているほか、分野間の相互乗り入れにも努めている。

この結果、行政機関における情報共有が密になったことに加え、地域における多様な主体における連携が進み、これまでの点の取組が、線と面の取組に発展しつつある。


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