| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T16-2

熱帯の植物フェノロジー:多様な開花頻度はどのように説明できるのか

酒井 章子(地球研)

温帯では多くの植物が1年に1回の繁殖リズムをもつが、1年という周期は植物にとって繁殖の間隔として最適なのだろうか。生物活動に不適な「冬」があること、潜在的に開花シグナルとなりうる環境変動の多くが1年のリズムをもっていることから1年に1度開花・結実しているが、季節がなければさまざまな周期をもつようになるのかもしれない。事実、1年中湿潤な季節性の弱い熱帯では、年に数回繁殖するイチジクのような植物から数年に1回一斉開花する植物まで多様な繁殖リズムをもつ植物が共存しており、その多様性は送粉や生活型などと相関があることが指摘されてきた。

この講演では、湿潤熱帯の植物を例に、どのような形質が繁殖フェノロジーと相関を示すのか、またその理由について考察する。たとえば、送粉者が特殊化している植物は開花期間が長く、あるいは頻度が高い傾向がある。そのような植物では、しばしば花あたり胚珠数が多く、送粉者を共有することによる異種の花粉を受け取るコストが大きいと考えられる。一方、多様な送粉者をひきつける植物の胚珠数は少なく、送粉者をめぐる競争は緩和されているのかもしれない。このように、繁殖フェノロジーと他の形質がセットになった「シンドローム」の存在は、形は違うものの、温帯でも提案されている。

マスティング現象も、繁殖周期の多様性の延長線上でとらえることもできる。湿潤熱帯のフェノロジーは、植物の繁殖フェノロジーにどのような要因が関連しているのかを考えるのに、温帯では得られにくい、有用な示唆を与えてくれると考えている。


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