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企画集会 T17-3
サロベツ湿原の水質と湿地溝の形成
湿地溝は特定の高位泥炭地に形成される小水路である.サロベツ湿原の湿地溝の特徴は,高位泥炭地の内部に一つ乃至複数の源流を持っており,樹枝状の流路網を持っていて,速やかに排水される水域につながっていることである.高位泥炭地に見られる微地形の中で主傾斜方向に連続する溝は湿地溝以外に例はない.
湿地溝の成因について阪口(1974)や梅田ほか(1984)などは浸食成因説を採っているが,別の成因を考える例(小谷,1954)もある.湿地溝の源流域は地表面勾配が極めて小さく,浸食営力を得るのには不充分のように考えられる.
梅田・清水(2003)はサロベツ湿原には埋没河道が多数存在し,ここでは周囲の泥炭に比べて透水性が大きいと述べている.また橘ほか(2002)は水質の側面から,湿地溝の水質は泥炭地内部の地下水と河川水との中間的な性質を示し,そこから滲出する水は高位泥炭以外に由来する水の通路である可能性を指摘している.これはその湿地溝に対して埋没河道からの水供給を示唆するものである.
ここでカレックスモデルによる検証を行なった.このモデルは与えられた地形条件下での地表水と地下水流動を非定常にシミュレートし,結果生じる水位変動が植生の生長を支配し,その植生が堆積することにより泥炭地形が変化するというモデルである.
一様な緩斜面にモデルを適用すると,斜面の主傾斜方向とは異なる方向の水の流動が生じる場合に湿地溝が形成される.サロベツ湿原の湿地溝の場合,埋没した旧河道の泥炭に起因した地下水の離合集散が原因となって形成されたものと推定される.一様な緩斜面の中に埋没河道を模して透水係数の大きい部分を設定するとこの部分に地下水が集中し,その水が下手側に湧き出すことで植物が生長しにくい過湿な環境が現われて湿地溝が形成されていく.