| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T19-3

湖沼生態系の環境経済評価

三谷羊平(コロラド大学・学振)

何故、生態系破壊が進むのだろうか?その原因の一つとして、現在の社会経済システムにおいて生態系などの自然環境の価値が適切に評価されていないということが挙げられる。つまり、自然環境にはその価値に基づいた価格が存在しないため、破壊や汚染といった利用行為に対する費用が掛からず、その結果として過剰に利用されてしまうのである。自然環境の価値を適切に評価し、社会経済システムの中に取り込むことによって、自然環境の保全再生や適切な利用を実現しようとするのが経済学の考え方といえる。

本報告では、自然環境の経済的価値を推定することができる環境評価手法を紹介する。特に、湖沼生態系を事例として生態学的な評価基準に沿った経済的評価がいかにして行われるか、及び、最新の分析手法を用いることで生態系の経済的価値の特徴に関してどのようなことが分かるのかを紹介したい。

環境保全の便益はしばしば個人やグループによって異なり、その合意形成を困難にしてきた。本報告では、このような環境保全を巡る好みの多様性を分析した研究を紹介する。生物多様性保全のように一般市民にとって認知度が低い対策と比較して、水質改善のような認知度が高い対策ほど一般市民の間で選好の多様度が小さくなり、一般市民の合意を比較的得やすいという結果を得た。

生態系サービスは通常の市場では取引されておらず、一般市民に認知されているとは言い難い。本報告では、財に関する知識や新たな情報の提供が価値形成に与える影響を分析した研究を紹介する。水質改善のような認知度が高い対策に関しては情報提供の効果が得られなかったが、生物多様性保全のように認知度が低い対策に関しては、情報提供によって価値額が高まると共に選好の多様度が低くなるという結果を得た。

最後に、生態系の健全性維持のために分野を超えた協力がいかにあるべきかを提示したい。


日本生態学会