| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T21-2

森林植物群集のフェノロジカルシンドローム:そのメカニズムと気候変動の影響

工藤岳*, 井田崇(北大・地球環境)

冷温帯落葉広葉樹林の林床植物群集は、上層木の葉群動態が作り出す明瞭な光環境の季節性を有している。林床植物群集の開花フェノロジーは、大きく分けて春咲き、初夏咲き、夏咲きの3つのグループに分けられ、それぞれのグループに属する植物は、似通った結実特性を示すことが最近明らかとなった(フェノロジカルシンドローム、Kudo et al. 2008)。春咲き植物と夏咲き植物群は花粉制限が弱い場合には高い結実を示すのに対し、初夏咲き植物は花粉制限がなくとも結実は非常に低い。このような結実特性は、繁殖時の炭素資源有効性と強く関係しており、光量の季節変動を反映した光合成活性が関与している。また、花粉制限の季節変動は、ハエ媒植物に比べてハチ媒植物で激しいことが明らかになった。すなわち、林冠木の開葉フェノロジーが作り出す光資源制限(植物間相互作用)と、ポリネーターの有効性による花粉制限(植物−動物相互作用)の双方が、フェノロジカルシンドロームを形成しているのである。

地球温暖化に代表される季節変動は、特にシーズン初期のフェノロジー現象に強く作用することが示されてきた。しかし、個々の生物のフェノロジー変動が繁殖成功度や生物間相互作用にもたらす影響について言及されることは少ない。温暖化が生態系に及ぼす影響を評価するには、それぞれの生態系が持つ構造を理解し、気候変動によりどのような構造変化が予測され、それが生態系機能にどう影響するのかを解析することが必要である。この発表では、植物群集のフェノロジー構造を重要な生態系構造と見なし、フェノロジー構造変化がどのような生物間相互作用を引き起こし、それが植物の適応度にどう作用するのかを示したい。


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