| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


企画集会 T29-4

生物多様性の評価を現場でどう活かすか

嘉田良平(横浜国立大学)

本来ならばもっとも自然環境と調和し、共存すべき産業であるはずの農林水産業の持続可能性が失われつつある。土、水、そして生物多様性など、農林水産業が依拠する根源的な自然資源が劣化しつつある中、こうした自然資源をいかに健全な状態に保全管理していくかが問われている。農山漁村の再生にとって、できれば農業・農村の営みを社会的・経済的にも成り立つシステムへと転換させる必要がある。消費者や地域住民の意向を十分に尊重しながら、集水域全体の地域間協働が求められるが、その際、土や水や生物生態系など、農林水産業が依拠する本源的な資源の持続性を取り戻すこと、そして農林水産業そのものの営みを通して、自然資源を健全に維持管理するという新たな仕組みが望ましい。

第一次産業は本来、豊かな自然資源に依拠して営まれるものであり、自然資源の適正な管理によって、はじめて持続的な生産が可能となる。同時に、適切に保全管理された農山漁村は、生物多様性の確保、良好な景観の提供、森林浴やレクリエーション機能の提供など、農山漁村の住民のみならず、都市に居住する人々に対しても、多面的な価値を提供する。そこで、身近な存在である地域の自然を再生する手段として、自然資源の持続可能性を担保しつつ、自然資源から人々の暮らしと経済を支える産業的な価値を創出する第3の道に注目したい。自然資源から産業的価値が創出されれば、自然資源は地域にとっての新たな経営資源となり、地域の担い手が育成される可能性が生まれるからである。

自然資源の社会的・経済的価値の多くは、市場で取引されることのない(市場価格を持ち得ない)「外部経済」である。したがって、持続可能な自然産業の経済システムを構築するためには、まずは「自然資源の有する多様な価値を可視化すること」が重要となる。これは生態学でいう「生態系サービス」の価値であり、その有効利用をいかに図るかがポイントとなる。


日本生態学会