| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) C1-01

小笠原諸島の甲虫相-生物地理学的特性と危機-

岸本年郎(自然研)

小笠原諸島の甲虫相は中根(1970)によってまとめられ、その構成や起源については黒沢(1976)により論じられている。小笠原が日本へ返還された当時、200種弱を数えるだけだった既知の総種数は、2002年の時点で333種を数えているが(大林他, 2004)、今回、近年の現地調査及び文献調査により種名未決定種を含めた55科318属442種をリストアップした。そのうち少なくとも、147種は固有種と考えられ、固有率は33.3%であった。この固有率の高さは、陸産貝類(94.3%)には及ばないもの、維管束植物(36.5%)に匹敵する高率で、昆虫全体での固有率27.5%より高い値を示している。世界の海洋島と比較すると、ハワイ諸島(固有種1278種、固有率68.3%)やガラパゴス諸島(固有種226種、固有率54.7%)よりも、全体の種数や固有率は低いが、面積あたりの固有種数では小笠原がはるかに高かった。

従来、小笠原の甲虫相の特徴として、固有種が多いことや分類群の構成が偏っていることとともに、地表性種が少ないこと、後翅の退化した種が少ないことを挙げられてきた。特に土壌・地表性種に着目し甲虫相を再検討したところ、ハネカクシ科55種、オサムシ科21種をはじめとする、少なくない地表・土壌性の種を産することが明らかになった。また、ハネカクシ科のうちの7種、オサムシ科の9種は固有種であると考えられた。

分類学的新知見として、陸貝専食と考えられる固有カタキバゴミムシや本邦及び太平洋地域からの初記録となるCephaloplectinae(ムクゲキノコムシ科)の発見の他、カミキリムシ科等の分類学的研究が進んでいる群でも顕著な新種が見いだされている。しかし、グリーンアノールやオオヒキガエルといった侵略的外来種の捕食の影響は深刻で、その生息には危機が迫っている。甲虫をはじめとした、固有昆虫類の保全上の喫緊の課題である。


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