| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) E1-03

里山林伐採によるニホンザル群の行動圏変化と農作物被害減少

*野間直彦,仲森理沙(滋賀県立大),小泉和也,濱中亮成(東近江市),近雅博(滋賀県立大)

農地に接する管理放棄された里山林を伐採し、獣による農作物被害を軽減させる対策は、イノシシに対する有効性が証明されている。ニホンザルに対する有効性をみる目的で、里山林伐採を実施している地域に生息するニホンザル群について、伐採前後の行動圏及び被害状況を調査した。

調査地は滋賀県東近江市で、「愛東A群」の行動圏である。調査地の北東は鈴鹿山脈に接し、南は幅100m前後の愛知川河岸段丘林を含む。里山林伐採が2008年9月から10月に行われた愛東外町は山地の断片化した林と河岸段丘林とが接続する集落で、群れはこの集落の林を移動通路に用いている。2008年4月から12月までラジオテレメトリまたは目視によって愛東A群を追跡し、測定点を伐採の前・中・後3期間に分け比較した。また2006年以前の行動圏とも比較した。群れの行動圏に含まれる森林の林縁中21.96kmについて、林内の見通しやすさを4種類に分類した。愛東A群が出没する7集落を対象にアンケート調査を行い、群れの出没頻度や里山林伐採前後の被害状況を質問した。

伐採前と伐採中、愛東外町を中心に南東・西・北に分布していた群れは、伐採後、愛東外町とその北に集中した分布に変化した。北への分布増加は伐採による影響と考えられた。伐採林で林の反対側が見えるほど透いた林縁の割合は4%から36%に上昇した。群れの分布は、林の反対側が見える林縁で高い負の選択性を示した。隠れ場を失ったことにより伐採後の林を避けるようになったと考えられる。アンケート調査の結果は、愛東外町では「被害が減った」と答えた世帯の割合が90%を上回った。

このように、里山林伐採はニホンザル群の行動域を変化させ農作物被害の軽減に効果があると考えられる。


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