| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) F2-06

貧酸素水域の拡大過程で生じた中海の突発的な汚濁化

*宮本康(鳥取衛環研),香月興太(高知大・海洋コア総研セ),山田和芳(University of Turku),坂井三郎(JAMSTEC),山口啓子(島根大・生物資源),高田裕行(島根大・汽水研セ),中山大介(島根大・汽水研セ),Hugo Coops(WL/Delft),國井秀伸(島根大・汽水研セ)

湖沼の突発的な汚濁化はレジリエンスが失われた時に生じる。レジリエンスを生み出すものは湖沼の形状により異なり、浅い湖沼では沈水植生が、深い湖沼では下層水に含まれる酸素が湖底からの栄養塩回帰を抑制することで湖水を清澄な状態に保っている。中海は沈水植生が発達する沿岸域が少ないことから深い湖沼と認識できる。そこで、本研究は中海を深い湖沼として捉え、汚濁化のメカニズムの解明を底質コア試料・文献情報・気象統計の分析を通じて試みた。

本湖の南西水域は1950年代に植物プランクトンが突発的に増加したこと、1950年代前半に陸水流入が一時的に急増したことが、底質コアの分析結果より示された。そして、1953年における史上最多の降水が、陸水流入の一時的な急増をもたらすことで植物プランクトンの突発的な増加を導いたことが、気象統計と文献情報の分析結果より示唆された。

一方、全湖レベルの下層水の酸素濃度は、1920年代以前から低下し続けていたことが文献情報より明らかになった。下層の貧/無酸素化は東部水域より始まった後、湖内を半時計回りに進行し、南西水域では1930年代より確認されるようになった。そして、こうした貧/無酸素化の進行は、流出入河川の人為改変(1922−1939年)に起因する湖水の滞留時間の長期化と海水の流入抑制に基づくことが、湖水の層別塩分を年代毎に比較した結果より示唆された。

以上の結果は、中海の南西水域が人為改変に起因するレジリエンス(下層水の溶存酸素)の消失過程で撹乱(記録的多雨)により突発的に汚濁化したことを強く示唆している。


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