| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) G1-03

花成制御の数理モデル;花成抑制遺伝子FLOWERING LOCUS Cのエピジェネティックな制御

佐竹暁子*(北大・創成), 巌佐庸(九大・理)

植物が季節変化に応答して開花にいたる過程を、開花誘導の鍵となる遺伝子の発現制御機構に基づいてモデル化した。

シロイヌナズナの花成抑制遺伝子であるFLOWERING LOCUS C (FLC)の発現量は、夏期の高温状態では高く、開花を抑制している。冬期に長期間の低温を経験することによって、FLC発現量が緩やかに低下し、その結果春先に花成が誘導される。これによって冬の低温を経験しない個体が間違えて秋に開花することを防ぐ。しかしいったん冬を経験した後、春に気温が上昇してもFLC遺伝子の発現は低いままである。FLC遺伝子の発現はヒストン修飾のエピジェネティックな機構で制御されているが、このような低温に対する応答を可能にするヒストン修飾機構は不明である。

本研究では、FLC遺伝子座におけるヒストン修飾の数理モデルを開発し、低温に応答した開花時期制御の仕組みを説明する。そのキーポイントは1細胞レベルでFLC転写の抑制状態と活性化状態が力学的に双安定となることにある。FLC遺伝子座に多数含まれるヒストンのそれぞれは、活性的修飾、非修飾、抑制的修飾の3 つの状態間を遷移する。活性的修飾が抑制的修飾に遷移する確率は、低温のもとで高くなり、また抑制的修飾を受けたヒストン数に比例して増加する正のフィードバックを受ける。最初は全てのヒストンが活性的修飾状態にある。低温シグナルの受容に伴い抑制的状態への遷移が始まる。双安定のために、FLCの発現が抑制された細胞と活性化された細胞が混ざり合い、個体全体では緩やかに発現抑制が生じ、春に再び気温が上昇しても、発現量は低く維持され開花にいたる。

このモデルにより、一年草と多年草の違い、適応する緯度による植物の応答性の違い、別の緯度に移植したときの変化などが説明できる。


日本生態学会