| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) G2-01

日中と夜間の生態系呼吸の違い:チベット草原における夏季と冬季の観測から分かったこと

*廣田充(筑波大・生命環境), 古松(中国科学院・西北高原), 沈海花(国環研・生物), 唐艶鴻(国環研・生物)

炭素循環研究では、植生や土壌といった生態系の主たる構造と、その間を移動する炭素(主にCO2フラックスの定量化が重要である。生態系の炭素フラックスは、主に植物の光合成による吸収フラックスと、生物の呼吸にともなう生態系呼吸(以下ER)があるが、ERはその正確な定量化が難しい。その主な理由として、ERは質的に異なる様々な放出源からのCO2の混合物であることや、日中は光合成も並行して起こるために、日中のERだけの定量化が不可能なことが挙げられる。これまでの研究では、呼吸だけ起こる夜間のERと温度の関係式から、日中のERを外挿するという手法がとられている。これは一日を通して生態系呼吸の温度依存性が一定、という仮定に基づいている。しかし、光合成が行われる日中は、蒸散に伴う根からの吸水や同化産物の転流が活発化することなどから、ERの温度依存性は夜間とは異なる可能性もある。この仮説を検証すべく、演者らはチベット高山草原を対象として、2005年の7月と11月に日中のERを人為的な暗黒条件下で直接定量化することで、日中と夜間のERの環境依存性の違いについて検証を行った。その結果、光合成が盛んに行われる夏季は日中と夜間でERの温度依存性は有意に異なり、日中のERのQ10は夜間のそれよりも大きかった(それぞれQ10=1.5、3.6)。また日中のERは、光強度が強いほど大きくなる傾向も明らかになった。さらに日中ERのこのような環境依存性は、植物の地上部が枯死する冬季には見られず、日中と夜間のERの環境依存性はほぼ同じであった。以上から、少なくとも夏季のERはこれまでの推定値よりも大きくなる可能性が示唆された。


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