| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) G2-04

生態系の退行遷移が寒帯林の島の安定同位体に及ぼす影響

*兵藤不二夫(岡山大・RCIS), David Wardle (SLU)

長期間にわたって大規模な撹乱がない場合、生態系の退行遷移が生じる。この過程では、より強く栄養塩制限がかかり、地上部や地下部の生態系過程の速度が低下する。熱帯や温帯の退行遷移において、どのように窒素循環が変化するか窒素安定同位体を用いて調べた研究はある。しかし、寒帯における退行遷移過程でどのように炭素・窒素安定同位体組成が変動するのかはわかっていない。本研究では、北部スウェーデンの寒帯林における5000年の遷移系列を対象とした。この調査地は、湖に浮かぶ30個の島々からなり、島の面積が小さくなるほど雷によって引き起こされる野火の発生が少なくなるため、退行遷移が進行する。この30の島々から、植物3種(シラカバ、ビルベリー、タチハイゴケ)、土壌、消費者としてコモリグモとアリ、島の周囲の湖からの餌源として、ユスリカを採集し、その炭素・窒素安定同位体比を測定した。その結果、退行遷移が進行するにつれ、植物3種と土壌の窒素同位体比は上昇した。これは、植物が大気中から生物的に固定された窒素を利用していること、有機態窒素をその窒素源として利用しているためであると考えられる。一方、退行遷移が進むにつれて、おそらく栄養塩制限による生理的ストレスのため、シラカバや土壌の炭素同位体比は高い値を示した。クモやアリの窒素同位体比は、退行遷移過程において明瞭な傾向を示さなかった。これは大きく変動する窒素同位体比を示すユスリカを利用しているためであろう。実際に、これら消費者の炭素同位体比は、退行遷移が進むにつれて、上昇しユスリカの値に近づいた。以上の結果は、植物と土壌、消費者の炭素・窒素同位体比を同じ環境傾度に沿って測定することで、地上部と地下部の生態系を駆動する環境要因や、それらの結びつきに関して新たな知見を与えうることを示している。


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