| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) I2-09

シロアリにおける攻撃性とは何か?ー防衛行動の定量化の試みー

*石川由希・三浦徹(北大・環境科学)

社会性昆虫はその複雑性ゆえに古くから学問的な注目を集めてきた。なかでもシロアリは高度な社会性を発達させたグループである。社会性昆虫の最大の特徴は「分業」であり、コロニーメンバーがカーストごとに異なった行動を示すことでコロニー全体の生産性を高めている。シロアリは多くの捕食者の標的であるため、いかに適切に防衛するかが非常に重要な命題である。シロアリのコロニーには防衛に特化した形態を持つ兵隊カーストが存在し、これまで、外敵への直接的な防衛行動はこの兵隊のみが行うと考えられてきた。しかし、実際カーストごとにこのような攻撃性がどのくらい違うのかを定量的に計測した例はない。

カーストごとの攻撃性の違いを検討するため、我々は人工巣にオオシロアリHodotermopsis sjostedtiの兵隊、ワーカー、補充生殖虫(王・女王に替わり生殖活動を行うようになった個体)を導入し、防衛行動の定量を試みた。単独では、兵隊、ワーカー、補充生殖虫の順に防衛行動(外敵に対する定位、咬みつきなど)の頻度が高く、これは野外で見られる傾向とよく一致していた。次に随伴するカーストによってこれらの攻撃性が変化するかを調べた。すると、兵隊や補充生殖虫の攻撃性はどんな場合でもほぼ一定であるが、ワーカーの攻撃性は随伴するカーストによって変化することが分かった。補充生殖虫に随伴する場合、ワーカーは頻繁に外敵に攻撃したが、兵隊に随伴する場合は普段より低い攻撃性を示した。つまり、ワーカーは周囲にいるカーストによって攻撃性を柔軟に変化させ、兵隊の不在時にはコロニーの防衛を担うと考えられる。またこの結果は、ワーカーが他個体のカーストを認識する何らかの機構を持っていることを示唆している。


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