| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) J1-07

高次捕食者の窒素安定同位体比-長期時系列からみられる餌環境の変動

*米崎史郎,清田雅史,南浩史,岡村寛(水研セ遠洋水研)

グローバルな数十年スケールで起こる海洋生物の変動現象がレジーム・シフトとして広く知られている.有名な事例としては,我が国の主要漁業資源であるマイワシ・カタクチイワシ・サバ類などの小型浮魚類の資源量が大幅な増減を交互に繰り返している魚種交替現象がある.これら小型浮魚類は,海産哺乳類や海鳥類などの高次捕食者の重要な餌となっており,魚種交替に対して,高次捕食者がどのように反応し,どの程度の影響を受けるのか近年,注目が集まっている.日本近海に晩冬から春季にかけて来遊するキタオットセイは,東北沖生態系における主要な高次捕食者の一種であり,彼らの摂餌特性解析は,漁業生態系における高次捕食者の役割を解明する上で,貴重な知見をもたらす.遠洋水産研究所では,1968年から40年間にわたってキタオットセイの胃内容物情報および生殖腺標本等を保管しており,そのサンプル数は1万頭近くに上る.東北沖におけるキタオットセイの長期胃内容情報を解析したところ,マイワシ・サバ類の資源変動と餌生物重量頻度間で同期性を示し,また非漁獲対象種であるハダカイワシ類などのマイクロネクトンも利用していることがわかった(Yonezaki et al., 2008).近年,生態系構造の時系列変化を把握するために,構成種の窒素安定同位体比から求めた栄養段階(TL)による考察がしばしば行われているが,これは対象種のTLの一定が前提となっている.だが,上記に示したように,餌環境変化に応じて利用している餌生物が異なっているため,TLが同一種で変化することが予想される.そこで,キタオットセイの生殖腺標本(1969〜2006年:154個体)を用いて,窒素安定同位体比分析を行い,時系列情報を得た(δ15N:12.78-16.71 ‰).この結果から同一種においてTLが変化しており,同位体比からも餌環境の変化が見出された.


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