| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) J2-04

被食者の遺伝的多様性が被食者−捕食者系の持続性に与える影響

*津田みどり, 和田志乃, Ah Nge Htwe(九大院・農)

遺伝的多様性は、それ自体は集団の平均適応度を上げる (Fisher 1930)。また、生物間(被食者‐捕食者間)相互作用の影響下でも、富裕化のパラドックスが誘引する絶滅を防ぐ(Doebeli 1997)など、進化的変化によって集団の安定持続性を高める効果があるとされている(Hughes et al. 2008)。さらには下位の栄養段階の遺伝的多様性の方が安定持続性に影響することも示されている(例えばTuda & Bonsall 1999)。しかし、寄主‐捕食寄生者(被食者‐捕食者)系においてこれらを検証した実例はほとんどない。

そこで本研究では、遺伝的多様性の異なるヨツモンマメゾウムシ(寄主)・コマユバチ(捕食寄生者)集団を用いた実験室実験系によってこれらの仮説を検証した。遺伝的多様性の低い寄主として2つの実験室飼育系統、高い寄主としてこれら2系統間F1を創始者集団として用いた。さらに、コマユバチの2系統それぞれを各マメゾウムシ集団と組み合わせた6種類の寄主−捕食寄生者系の個体群変動を、幼虫期の餌であるアズキを定期的に加えながら400日間観測した。結果、絶滅までの時間は、マメゾウムシの系統間交配集団からなる系で有意に短く、遺伝的多様性が絶滅を促進するおそらく初めての実証例となった。コマユバチ系統の影響は見られなかった。実験測定した生活史形質や被寄生率の集団間差異をもとに、系の不安定化を齎したメカニズムについて考察する。


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