| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(口頭発表) K2-09

西オーストラリアの塩害地におけるユーカリ植林木の成長低下

*齋藤隆実(東大院理,UWA),曽根恒星(ブリヂストン中央研),林和典(日本製紙森林科学研),上田眞吾,片瀬隆雄(日大生物資源),野口航,寺島一郎(東大院理)

オーストラリア大陸南西部の半乾燥地においては、紙の原料を生産するためにユーカリが植林されている。同時にこの植林地は、塩害を緩和しCO2を吸収するという社会的な役割も期待されている。効果的な植林には、乾燥や塩分ストレスに対して耐性を持つ精英樹を用いることが望ましい。しかし、精英樹を選抜するにあたって、基準となるような生理的な指標は明らかでなかった。そこで、本研究では土壌塩分濃度の高い植林地において、性質の異なる系統の成長を追跡し、葉の生理的な性質と関係づけることを目的とした。

材料として、Eucalyptus globulusの高成長性系統(HG1)および塩耐性(ST1)あるいは乾燥耐性(ST2)を示すと期待される系統を使用した。2005年7月に土壌条件のよい良好地と塩害地にクローン苗を植栽した。以後、個体の成長を記録するとともに、葉の水分特性やガス交換特性、炭素安定同位体比と窒素濃度を測定した。

その結果、個体の成長は高成長性系統が耐性系統よりも大きかった。塩害地ではどの系統も成長が大きく低下したが、やはり高成長性系統が最も大きかった。一方、光合成速度は良好地では高成長性系統で高いものの、塩害地では耐性系統で十分に高かった。また、葉の気孔コンダクタンスには、系統間や調査地間で明確な違いはなく、成長の違いとは一致しなかった。さらに、葉の炭素安定同位体比や窒素濃度には、系統間や調査地間で明確な違いがなく、葉がとくに水分や養分のストレスを受けているとは言えなかった。したがって、個体の成長の大小は葉の生理的な性質だけからではうまく説明できない。それでは、どのように理解したらよいのか。本大会で議論する予定である。


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