| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-021

仙丈ケ岳におけるニホンジカ食害エリアにおける植生復元

*彦坂遼,渡辺修(信州大農)

長野県と山梨県の県境に位置する仙丈ヶ岳(3033m)は、貴重な高山植物が数多く自生していることで知られている。しかし、1990年代末頃よりニホンジカによる食害が進み、南アルプス全域で高山植物が急速に失われている。南アルプスのニホンジカの個体数は年々増加しており、高山植物への壊滅的被害が懸念されることから、南アルプス周辺自治体、関連省庁、大学が協力して南アルプス食害対策協議会を組織し、2008年に仙丈ヶ岳の中でも特に被害が著しい馬ノ背ヒュッテ周辺に防鹿柵を設置した。防鹿柵の設置により、ニホンジカの侵入を防ぎ、柵内に種子や芽生えが残存している場合、柵内の植生の部分的な復元が期待される。そこで、本研究では、馬ノ背ヒュッテ周辺に設置された防鹿柵の内外で、植生調査を行い、防鹿柵の設置効果について検討した。

馬ノ背ヒュッテ周辺では、ニホンジカの不嗜好植物とされているマルバダケブキがダケカンバ林床で優占しており、ミヤマシシウド等の高茎草本や馬ノ背付近でかつて豊富に見られたミヤマクロユリはほとんど見られなかった。また、草丈の非常に低いキバナノコマノツツメも数多く確認された。柵を設置して1年後、ミヤマキンポウゲやタカネスイバ等の開花が数多く確認され、柵の設置効果が確認された。マルバダケブキは、柵設置後も柵内外で優占度が高く、特に柵内では、光競合による他草種への影響が懸念された。そこで、マルバダケブキの個体数管理として、2009年に馬ノ背ヒュッテ周辺でマルバダケブキの刈り取りを行い、刈り取り後の植生と日射量の変化を調査した。刈り取りの結果、群落内の日射量の増加が確認され、シラネセンキュウやミヤマシシウドといったセリ科植物の増加が確認された。マルバダケブキについては、今後も刈り取りによる管理を行い、刈り取り後の植生の変化について、長期的にモニタリングしていく必要があると考えられる。


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