| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-105

コナラ稚樹における窒素の吸収時期による葉からの引き戻しの相違

*上田実希(京大・フィ研),水町衣里(京大・情報),徳地直子(京大・フィ研)

森林生態系の窒素循環は、窒素が土壌と植物の間を行き来する内部循環が卓越している。樹木が窒素を吸収し、のちに落葉することは森林生態系の窒素循環を動かす大きな原動力のひとつである。このため、樹木の窒素吸収と、落葉に伴う窒素の土壌への還元の研究が多数行われてきた。しかし、吸収と落葉の研究は多くが別々に行われており、窒素が吸収されてから落葉に伴って体外に出るまでの樹体内での窒素循環に関しては不明な点が多い。樹体内の窒素循環は樹木のフェノロジーの影響を強く受けることが予想され、樹木が窒素を吸収する時期によって異なると考えられる。このため、吸収時期の異なる窒素は樹体内での循環の仕方が異なる可能性がある。本研究では、落葉広葉樹のコナラの稚樹を材料とし、窒素の吸収時期の違い(春:葉の展開が起こる4-5月、冬:落葉が終わって葉がない1-2月)が、樹体内での窒素循環にどのように影響し、落葉時期に関わっているのかを窒素の安定同位体を用いて調べた。いずれの時期にも窒素は吸収されたが、春に吸収された窒素はすぐに葉に供給されたのに対し、冬には葉がないことから根に保持され、翌春に葉に供給された。葉を形成する窒素のうち、春に吸収された窒素が冬に吸収された窒素よりも多かった。春に吸収されて葉に配分された窒素は翌秋には大部分が樹体へ引き戻ったのに対し、冬に吸収されて翌春に葉に配分された窒素は多量に落葉に含まれていた。これは、吸収された時期によって、葉中の画分への窒素の配分が異なり、春に吸収された窒素が、より引き戻り易い画分へ配分されたことを示唆している。樹体内に引き戻った春に吸収された窒素は、その次の春に再び葉に配分され、秋には多量に落葉に含まれた。春に吸収された窒素は冬に吸収された窒素よりも長く樹体内に保持されると考えられた。


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