| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-147

富士山森林限界付近におけるタデ科植物の環境適応

*伊藤理恵,増沢武弘 静岡大学大学院理学研究科

富士山南東斜面では、宝永の噴火で植生が破壊され、現在は一時遷移が進行している。特に森林限界付近では、狭い範囲で裸地から森林へと環境が大きく変化している。また、草本植物の形態は、特に光環境の影響を大きく受け、同じ種内でも可塑性による変異が認められている。

本研究では富士山森林限界付近に生育するタデ科のイタドリ(Polygonum cuspidatum)とオンタデ(Polygonum weyrichii var alpinum)を対象に、裸地、林縁、林床で、3ヵ所それぞれのパッチの分布と形態を比較した。また、実生の生存や形態の比較のために移植実験を行った。移植実験は富士山の裸地、林縁、林床に加え、裸地に寒冷紗をかけて被陰した実験区(被陰区)で行った。

裸地、林縁、林床と全ての場所でイタドリが観察されたが、その植被率は裸地から林床にかけて減少した。オンタデは林床では見られず、林縁の植被率は裸地より小さかった。

イタドリは裸地で着葉数が多く、シュートは直立し、分枝した。一方、林床では着葉数が少なく、シュートは分枝せず、水平に伸びた。裸地のイタドリの葉は厚く小さい、林床では薄く広いことから、イタドリは環境に対応し、シュートの向き、着葉数や葉の形態を変化させていると考えられる。一方、オンタデでは、場所による形態の違いはほとんどなかったので、環境の変化に対する適応力がイタドリより低いことが示唆された。また、オンタデの実生は、林床と被陰で生存率が低く、越冬芽も少なかったので、被陰による影響を強く受けると思われる。イタドリは、林床で実生の生存率が高かったが、全体の乾重量が低く、越冬芽が少ないので、今後個体を拡大することは難しいと考えられる。

両種は共に裸地の方が生存、発展は有利だが、生育場所によって形態を大きく変えるイタドリの方が、環境の変化に適応して生存していくことができると示唆された。


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