| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-171

気孔コンダクタンスの季節変化が葉組織中のセルロースの酸素安定同位体比に与える影響

*隠岐健児,松尾奈緒子,大橋達矢(三重大・生物資源)

葉内の水の酸素安定同位体比(δ18O)は蒸散にともない上昇するため,瞬間的な蒸散特性を表すことが知られている.さらにセルロース合成の際に,葉内の水とトリオースリン酸のカルボニル基のあいだで酸素原子の交換が起こるため,葉組織中のセルロースのδ18Oは長期的な葉内の水のδ18Oを反映する.したがって,葉組織中のセルロースのδ18Oは長期的な蒸散特性を表すと考えられ,環境制御下での検証が進められているが,野外での検証例は極めて少ない.そこで本研究では自然条件下の樹木を対象に,気孔コンダクタンスの季節変化が葉内の水のδ18Oを通じて葉組織中のセルロースのδ18Oに与える影響を考察した.2009年6月から12月まで1ヶ月に一度三重大学構内のサクラ(落葉広葉樹)とクスノキ(常緑広葉樹)を対象に,個葉の蒸散速度と気孔コンダクタンスの測定を行った.また同時に葉と茎を採取し,葉から抽出したセルロースと葉および茎から抽出した水のδ18Oを測定した.気孔コンダクタンスの日最大値はクスノキ,サクラともに夏季(7,8月)に大きく,その他の季節は小さく抑えられていた.また,クスノキよりサクラのほうが季節変化の幅が大きかった.一方,葉組織中のセルロースのδ18Oはクスノキではほぼ一定であったのに対し,サクラでは6月から9月にかけて低下した.このことからサクラにおいて夏季の高い気孔コンダクタンスがセルロースのδ18Oに反映された可能性が考えられる.さらに,葉内水のδ18Oの季節変化の違いを明らかにし,気孔コンダクタンスが葉組織中のセルロースのδ18Oに与える影響について考察する.


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