| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-199

「東濃地域における光・水環境がシデコブシの生育に与える影響」

加藤杏奈(名大,環境学)

シデコブシ(Magnolia Stellata)は絶滅危惧II類に指定されている落葉小高木で、東海丘陵要素のひとつとされる(植田1989)。本種は生殖において実生繁殖(有性)と栄養繁殖(無性)の両方を行なうが、これらと環境条件との関連性についての研究は少ない。本研究は光・水環境がシデコブシに与える影響、ならびに2つの繁殖様式をもつ要因を明らかにすることを目的とする。

調査は、岐阜県多治見市の深山の森自然公園、並びに喜多緑地公園内のシデコブシ群落で行なった。10m×35mの帯状調査区を設置し、調査区内に生育する全てのシデコブシを対象として、幹長、伸長量、胸高直径(DBH)を測定すると共に、株構造を調べ記録した。また、調査区を2.5m×2.5mの小プロットに分け、各プロットにおける相対光量子束密度(rPPFD)及び土壌含水率を測定した。更に、伏状個体で掘り取り調査を行ない地下の連繋と個体間距離を調べた。

結果、調査区全体においてrPPFD0-10%のプロットで個体数が多く見られ、比較的暗い環境に適応できる耐陰性を持つと推測された。また、土壌含水率60%以下の環境で80%以上のシデコブシの生存が確認された。

一方、各株のサイズ構造をみると、株あたり幹本数の多い個体は暗く湿った環境で多く見られ、これは掘り取り調査からも同様の傾向が見られた。株内の最大DBHに比例して幹数も増加していたことから、本種は萌芽することで株を生長させ、生育空間を獲得していると考えられる。また、掘り取り調査の結果より、幹長50cm以下の個体も地下部で連携し接地面から発根していたことから、伏状することで株の寿命を延ばしていると思われる。

シデコブシは土壌含水率の高い環境で生育がよく、株立ち個体も多くなることが確認された。これらの性質を持つことで、本種は湧水湿地のような環境で個体群を維持してきたと推測される。


日本生態学会