| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-237

スギ人工林内で生育するマテバシイ稚樹はどこからやってきたのか?

*中村麻美(鹿大院 連農),平田令子(鹿大院 農),井鷺裕司(京大院 農),畑邦彦(鹿大 農),曽根晃一(鹿大 農)

樹木にとって唯一の分布拡大の機会である種子散布は、母樹下での種子の密度依存的死亡や他個体との競争の回避を可能にするため非常に重要である。日本に広く生息する種子食性野ネズミのアカネズミとヒメネズミは、餌不足期に利用するため秋に落下する堅果類を貯食することで知られており、彼らによる貯食堅果の回収がされなかった場合、堅果は発芽・定着し、結果として彼らが樹木の種子散布者として貢献していると言える。これまで、南九州に分布する照葉樹林の主な構成樹種であるマテバシイを対象に、樹木更新に対する野ネズミの貯食活動の役割について調べてきた。その結果、鹿児島大学農学部附属高隈演習林内のマテバシイが優占する常緑広葉樹林とスギ人工林が隣接する約1.2haの林分において、堅果の自然落下分布はほとんどが広葉樹林内に留まっていたのに対し、稚樹は自然落下分布を超えたスギ人工林の内部にまで侵入し、ほぼ全域で生育していることが示され、種子食性野ネズミが種子散布者として重要な役割を果たすことが明らかになった(平田ら 2007)。しかし、スギ人工林内に生育する実生や稚樹がどの母樹に由来するものかは明らかになっていない。そこで、マテバシイの実生がどの母樹から運搬されてきたのかを明らかにするため、遺伝マーカーを用いた遺伝解析を実施した。2007〜2008年にかけて同調査地内で採集されたマテバシイ母樹の葉(n=52)とスギ人工林内で採集した堅果の果皮(n=174)の遺伝解析をマテバシイのマイクロサテライトマーカー10座(Nakamura et al. 2009)を用いて行ったところ、174個中21個(12.1%)の果皮について広葉樹林内の母樹と親子関係が認められた。堅果は最小で母樹から10m未満、最大で40〜50mの運搬がされていた。


日本生態学会