| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-248

野外で人為的に発生させたアオコの環境応答

*程木義邦,天野一葉,大林夏湖,小林由紀,田中拓弥,奥田昇,中野伸一(京大生態研セ)

「アオコ」とは,富栄養化した淡水域で生じるラン藻の集積現象のことで,群体や糸状体を形成するラン藻が浮遊し水面を覆っている状況を示す。毒素を生産する種も多いため,上水に利用される湖沼や貯水池ではアオコの発生が特に問題となる。アオコを形成する代表的なラン藻のMicrocystis属は,同一種内でも有毒株と無毒株があることが知られている。近年の分子生物学的手法を用いた研究により, Microcystis属には非常に多様な遺伝子型が見られること,分子系統学的にはこれまでの形態分類と異なる分類体系になり,有毒タイプと無毒タイプに分離できることなどが報告されている。そのため,遺伝子型レベルでの解析により,アオコの形成機構と遺伝的多様性,毒性タイプの個体群動態と環境要因の関係についての科学的知見の蓄積が求められている。本研究では,上述の研究の予備実験として,野外実験池に栄養塩と湖水を添加し,人為的にアオコを発生させることを試みた。

容積70m3の3基の野外実験池に, MA培地(最終濃度1/50)とともにプランクトンネットで濃縮した琵琶湖湖水を3段階の量(濃縮前の湖水に換算して,A:3m3, B:0.6m3, C:0m3)で添加,その後2週間おきに栄養塩の再添加を行った。実験開始22日後,湖水の添加量が最も多かったA池で水面へのラン藻(主にMicrocystis)の集積が確認された。一方,湖水添加量の少ないBおよびC池ではMicrocystisの顕著な増殖は見られなかった。また,光合成活性の評価の結果,アオコが形成されたA池では,栄養塩の添加周期とラン藻の光合成活性の変化に明瞭な関係は認められなかった。以上の結果より,Microcystisによるアオコの形成は栄養塩供給だけでなく,初期の存在量,その他の環境・生物要因などの影響も大きいことが示唆された。


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