| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-292

北海道東部浦幌地域におけるヒグマの痕跡を用いた生息地利用解析

*中村秀次(日大・生物資源・森林動物),小林喬子(東京農工大・院・連合農),伊藤哲治(日大・生物資源・森林動物),嶋崎暁啓(サロベツ・エコ・ネットワーク),浦田剛(浦幌ヒグマ調査会),佐藤喜和(日大・生物資源・森林動物),佐藤伸彦(日本生態系協会)

国内におけるヒグマの生息地利用の研究は,ヒグマの生態調査が集中的に行われている狭い地域における少数個体を対象とした研究が多く,地域個体群レベルを対象とした研究や,集中的な調査が実施されていない地域にも適用可能な研究はほとんど無い.本研究では,北海道東部十勝郡の浦幌地域道有林において,安価で簡便に情報が得られる,ヒグマの痕跡を用いた生息環境の解析を試みた.また,ヒグマの採食資源のうち,夏の主要な採食資源であるアリの分布予測に加え,秋の主要資源であるミズナラ,サルナシ,ヤマブドウの分布予測を行い,ヒグマの生息地利用に採食資源の分布が及ぼす影響を,食性と採食資源の分布予測で得られた結果から分析した.結果,嶋崎(2006)が本調査地において糞回収よりも労力のかかる,ヘアトラップを用いて行った生息地利用調査の結果とほぼ同様の結果が得られた.初夏は他の季節に比べ河川密度がやや高い地域を利用し,夏は人里に近い場所へ移る傾向が見られ,秋は林道密度が低く,他の季節に比べやや標高が高い地域を利用していた.また秋の採食資源であるサルナシ,ヤマブドウの分布傾向は林道周辺に高い適性を示した.これらの結果から,秋季は狩猟の影響から林道密度が低く,人が入りづらいやや高い標高の地域の,林道周辺を利用していることが予想された.また,晩夏から秋の生息地利用の結果は,同地域で行われたテレメトリー調査やヘアトラップを用いた調査と同様の結果を示した.ある程度の精度であれば,情報を得るのが容易かつコストのかからない糞からでも生息地利用の解析に用いることができ,広域的な調査に応用できる可能性がある.


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