| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-044

カエデ属ハナノキ節植物の比較系統地理: 隔離分布、気候変動、およびハビタットの違いが与えるインパクト

*佐伯いく代(首都大・理), C.W. Dick, B.V. Barnes, (U. of Michigan), 村上哲明(首都大・理)

ハナノキ節植物は、ハナノキ(Acer pycnanthum)、アメリカハナノキ(A. rubrum)、およびギンヨウカエデ(A. saccharinum)の3種からなる分類群で、ハナノキは日本に、アメリカハナノキとギンヨウカエデは北アメリカに隔離分布している。本節は、開花・結実の時期が早いこと、倍数性(4〜8倍体)を持つことなどから、カエデ属の中でも特異なグループとして位置づけられている。本研究の目的は、葉緑体DNAの情報を用いてハナノキ節植物の遺伝的分化状況を把握し、かつ氷期の気候変動が各種に与えた影響を明らかにすることである。分布域を網羅するように741個体の葉のサンプルを採集し、葉緑体DNAの遺伝子間領域(約1600bp)を解析した。一塩基の繰り返し数の違いを除くと、ハナノキからは2種類のハプロタイプが検出され、他の2種と遺伝的に大きく分化していることが明らかにされた。アメリカハナノキとギンヨウカエデは分布域が大きく重複するにもかかわらず、対照的なパターンを示した。アメリカハナノキからは19のハプロタイプが検出され、強い地理的構造をもつことが明らかにされた。一方、ギンヨウカエデは、ハプロタイプの数が7と少なく、地理的構造も不明瞭であった。両種は近傍の集団を中心として、5種類のハプロタイプを共有しており、浸透交雑が起こっている可能性が示唆された。MaxEntを用いてアメリカハナノキの最終氷期の分布域を推定したところ、南部の系統群は、集団の縮小・移動にともなうボトルネックの影響が小さかったことが推察された。ギンヨウカエデは、最終氷期と現在の分布域が大きく異なり、かつハビタットが大河川の氾濫原に限られることから、最終氷期に非常に強いボトルネックを受けていたと考えられる。


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