| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-052

オオヤマレンゲ(Magnolia sieboldii)亜種間に生じた浸透性交雑の可能性

*菊地賢(森林総合研究所)

オオヤマレンゲ(Magnolia sieboldii spp. japonica)は、日本では関東地方から屋久島にかけて分布し、1000〜2000mの山地に稀に生育する落葉低木である。国外では、中国の中南部にも隔離分布が知られる。一方、朝鮮半島には亜種オオバオオヤマレンゲ(ssp. sieboldii)が分布し、標高300m以上の山地に普通に見られる。

本研究では、このような興味深い分布様式を示すオオヤマレンゲの系統地理を解明することを目的に、葉緑体遺伝子間領域を用いた遺伝解析を行った。国内の27集団および韓国のオオバオオヤマレンゲ3集団から試料を採取し、葉緑体SSR6部位と2部位のPCR-RFLPマーカー用い各個体のハプロタイプを決定した結果、16個のハプロタイプが検出された。Haplotype networkの構築により、これらのハプロタイプは大きく3つのグループに分けることができた。グループ1は、5つのハプロタイプを含み、関東地方から紀伊半島にかけて分布した。グループ2は1ハプロタイプからなり、中国地方でしか見られなかった。グループ3は、10ハプロタイプからなり、他の2つのグループとは遺伝的に離れていた。韓国のオオバオオヤマレンゲ集団はすべてこのグループのハプロタイプによって占められたほか、九州・四国地方の集団のハプロタイプもこのグループに属した。

以上の結果から、日本国内のオオヤマレンゲ集団のうち九州・四国集団は母系的に他地域集団と異なり、亜種オオバオオヤマレンゲの系統に属することが示された。このことは、九州・四国地方において、両亜種間で浸透性交雑が生じた可能性を示唆している。本発表では、さらに核遺伝子を用いた解析により、浸透性交雑の可能性を検討する。


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