| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-057

フユシャク蛾の種分化と多様化:冬の寒さが種分化を促す

*山本哲史(京大理院),A.E.Beljaev(IBS Russia), 曽田貞滋(京大理院)

繁殖タイミングのずれによる時間的隔離は多くの分類群で見られる隔離要因であり、時間隔離は近縁種間の生殖隔離だけでなく、種分化を引き起こしえる。また時間隔離はそれだけで種分化を起こし得る。そのため、時間的隔離は空間的隔離と対比され、同所的種分化や同所的集団間の隔離の研究ではしばしば重要な隔離要因として議論されている。しかし、繁殖期のずれが種分化を起こすほど長い期間維持されるのは困難だという指摘もある。実際、時間的隔離による種分化の研究で分子データによって集団間の隔離をしっかり示された分類群は同種内の集団間であり、種分化の初期段階についてしか時間的隔離の重要性は示されていない。

Inurois属は成虫が冬に羽化・交尾・産卵を行うシャクガ科蛾類である。本属は冬季環境がきびしい寒冷地では真冬の厳冬環境を避けて初冬と晩冬に羽化するため、初冬型種と晩冬型種に分別することができる。これまでの研究から本属は初冬型と晩冬型の分化に伴う時間的隔離によって多様化してきた分類群である可能性がある。そこでInurois属の系統関係を明らかにすることで、種分化における時間的隔離の重要性を検討した。3つの核遺伝子を元に系統解析した結果、Inurois属の系統樹では初冬型種と晩冬型種のペアが複数みつかった。このことからInurois属では時間的隔離による種分化が複数回繰り返してきたと考えられ、種分化における時間的隔離の重要性を支持する。一方、これらの初冬・晩冬ペアは、同時に地理的に隔離された日本産と大陸産の種のペアであることも明らかになった。これは種分化が時間的隔離だけでは完了しない可能性も示唆している。Inurois属では種分化の初期には時間的隔離が重要だが、完了過程では地理的隔離が重要になるとことが示唆された。


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