| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-074

可塑的防衛行動はいつも適応的か?:野外観察と室内実験によるフサカ日周鉛直移動の検証

*永野真理子(東大・総合文化), 八木明彦(愛工大), 吉田丈人(東大・総合文化)

日周鉛直移動(diel vertical migration, DVM)は、海洋や淡水域のプランクトンが昼夜で分布深度を変える行動である。これは餌生物が、捕食者の放出するカイロモンを感知すると、昼間は暗い湖の深層にとどまり、夜間は採餌のために表層に浮上する、可塑的な防衛行動と解釈されている。よって、捕食者がいない水域ではDVMはみられない。

調査をおこなった長野県の深見池(最大水深7.75m)のフサカ(双翅目)幼虫は、夏期において、ブラックバスなどの視覚捕食者を避けるために、典型的なDVMを示した。一方冬期においては、魚類の捕食活動は低水温のために抑えられているにもかかわらず、フサカは底泥中から水深5mへ鉛直移動をみせることがわかった。

室内実験では、水温が22℃のときは、魚カイロモンなし区でも魚カイロモンあり区でも、明期は底層に暗期は表層に分布するDVMを示した。同様に水温が5℃のときも、両方の区でDVMが認められた。また水温間でDVMの平均移動距離を比較すると、5℃より22℃のときに、より大きな鉛直移動をすることがわかった。さらに、実験前後での体重変化をみると、22℃の方が5℃より著しい減少をみせたが、カイロモンの有無では差異がみられなかった。

以上のことから、フサカは捕食者である魚が不活発な低温期にもDVMをすることがわかった。フサカのDVMを誘導する要因として、光強度と捕食者カイロモンが知られているが、カイロモンがなくても光強度の変化だけで防衛行動が誘導されることが明らかになった。季節的に捕食者の密度が変化する湖において、捕食者が高密度のときにみられる餌生物のDVMは適応的である。しかし、捕食者がいない場合のDVMは、捕食を介して得られる利益よりも鉛直移動に伴うエネルギーコストがかかるために、不適応になっているかもしれない。


日本生態学会