| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-076

スミレ種間雑種(ナガバノアケボノスミレ)形成集団における交雑現象の解析

*長野祐介(信大・理),平尾章(信大・山岳研),市野隆雄(信大・理)

日本の内陸部に分布するアケボノスミレと太平洋側に分布するナガバノスミレサイシンには種間雑種ナガバノアケボノスミレが存在する。両親種の分布重複域は関東から九州まで広く存在すると思われるが、雑種の生育が知られているのは東京都西部から山梨県東部にかけての狭い範囲のみである。雑種はほとんど稔性を持たない(浜 2002)とされているが、自然状態でのF2・戻し交雑個体の生育の有無は詳しく調べられてはいない。本研究では雑種形成集団の分布や集団構造、集団間の比較などを通して交雑集団の実態やその維持機構を探ることを目的としている。調査は3ヶ所(山梨県扇山、東京都高尾山・高水山)で行い、それぞれで分布状況を確認するとともに、DNA抽出・形態測定用に葉を一枚ずつ採集した。雑種生育地はいずれも山頂付近、尾根沿いであった。これは親種それぞれに適応的な環境(アケボノ:明るくやや乾燥した環境、ナガバノ:陰地のやや湿った環境)の移行地となっているためと考えられる。また、扇山においては両親種の開花期が低標高地でずれていたのに対し、尾根沿いでは重複していた。これらのことから雑種が形成されるには、両親種の分布が近接できる環境の存在と、両親種の花期の一致という条件が重なることが必要と推測された。抽出したDNAからはAFLP法によるフラグメント解析をもとに主成分分析、NewHybridsによるベイズ推定を用いて雑種の識別を行なった。その結果、雑種はほとんどがF1ということが示唆され、両親種の中間的なクラスターを形成した。また、雑種の形態的、遺伝的形質の特定のため、採集した葉から形態形質値として葉の全長・全幅を計測し葉形指数を算出したところ、DNA解析結果の比較では、雑種と判定された個体は両親種の中間的形質を示すことが明らかになった。


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