| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-088

高山湖沼の微生物群集の地理的変動に影響を及ぼす要因

*平尾聡秀, 藤井正典, 小島久弥, 福井学(北大・低温研)

微生物は物質循環を担う主要な分類群であり、その生態系機能を解明するには、微生物群集の地理的分布とその制限要因を明らかにする必要がある。微生物地理学に関するこれまでの研究は、自由生活性の微生物の地理的分布に規則性が存在することを示しており、微生物群集の地理的パターンを形成する要因として、環境フィルターの重要性を指摘している。しかし、分類群の在‐不在データだけでは、環境フィルターとして作用する要因を特定することは難しい。そこで、本研究では、微生物群集の系統情報を利用することによって、微生物群集の地理的分布とその制限要因の解明に取り組んだ。

2005年・2006年の夏季、中部・東北・北海道地方の高山・亜高山帯に存在する46湖沼から湖沼表層水を採取し、物理化学的特性を測定した。初めに、16S rRNA遺伝子を対象にPCR-DGGEによって細菌群集の多様性を評価した。これらのデータからBetaproteobacteria群集の地理的分布を解析した結果、多様性の緯度勾配や種数面積関係はみられなかったが、入れ子分布(小さい群集が大きい群集の部分集合になること)が検出され、湖沼間の群集構成の類似性が距離とともに減衰するパターンがみられた。群集の多様性は水温・溶存有機炭素量と相関があり、これらの要因が環境フィルターとして地理的パターンの形成に寄与していることが示唆された。次に、貧栄養湖について、Betaproteobacteriaに特異的なプライマーを用いて湖沼ごとにクローンライブラリーを作成し、各湖沼の群集の系統的近縁度・系統的多様性、湖沼間の群集構成の系統的類似性を評価した。これらの系統構造と環境要因の関係を解析することによって、群集の地理的変動に対して環境フィルターとして作用する環境要因を検討した。本講演では、これらの結果について議論する。


日本生態学会