| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-095

森林性ワラジムシ類Burmoniscus属の分子系統地理

*唐沢重考(福岡教育大学),本多正尚(筑波大学)

琉球列島および西日本の太平洋側の森林にはAnchiphiloscia属(以下Anc属)・Burmoniscus属(以下Bur属)のワラジムシ類が広く分布しており,しばしばワラジムシ群集の優占種となる.日本にはAnc属は3種,Bur属は12種が分布しているが,それらの分布は日本に制限されており,日本の固有種と考えられている.一方,Kwon and Jeon(1993)は日本産Anc属およびBur属のタイプ標本を再検討した結果,Anc属の3種はB. ocellatus,Bur属の8種はB. okinawaensisにまとめるのが妥当であるとした.前者は東アジア一体,また,後者は汎世界的に分布しており,海洋島であるハワイ諸島にも分布が確認されており外来種(or広汎種)である可能性を示唆している.すなわち,現在,日本の亜熱帯林および暖温帯林におけるワラジムシ類の優占種については,「多様な固有種」もしくは「2種の外来種(or広汎種)」という正反対の知見が共存しているのである.

これらを踏まえ,演者らは和歌山〜与那国島からAnc属・Bur属のワラジムシ類を採取し,ミトコンドリアDNA(COI,12S,16S)の塩基配列に基づく分子系統樹を作成した.その結果,宮古島〜和歌山から得られたB. okinawaensisにはほとんど遺伝的変異が認められなかった一方,八重山諸島から得られたB. ocellatusは島間で大きな遺伝的分化が見られた.これらの結果は,B. okinawaensisは近年に急速に分布を広げたことを示唆する一方,B. ocellatusは古くから八重山諸島に生息していたことを示唆している.また,これまでに報告のない2種が沖縄島,奄美大島,および,九州から見つかり,それらは地域間で遺伝的分化が大きいことから,これらの種が沖縄島以北の在来種であることが示唆された.


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